葬儀は、長い時間をかけて受け継がれてきた営みです。それでも近年は、生成AIの広がりやオンライン化の波が、お別れのかたちにも少しずつ変化をもたらしています。リモート参列、デジタル遺影、QRコードの墓標、さらには故人をAIで再現するサービスまで、数年前には想像しにくかったことが現実になりつつあります。
この記事では、AI・デジタル・テクノロジーが葬儀業界をどう変えているのかを、日本と世界の最新データからまとめました。数字はそれぞれに出典を添え、推計や予測にはその旨を明記しています。世界市場の数値は調査会社名と「世界市場」であることを示しました。冷たいデータの羅列ではなく、お別れの現場で何が起きているのかを静かに眺めるための地図として読んでいただければ幸いです。
1. 日本の個人の生成AI利用率は26.7%まで上昇(総務省「令和7年版 情報通信白書」)
総務省の「令和7年版 情報通信白書」によると、日本で何らかの生成AIサービスを「使っている(過去に使ったことがある)」と答えた個人の割合は、2024年度調査で26.7%でした。2023年度調査の9.1%から1年で約3倍に伸びています。ChatGPTをはじめとする生成AIが、ごく短期間で生活のなかに入り込んできたことがわかります。文章を整える、調べものをするといった日常の用途が広がるなかで、お悔やみの言葉や弔辞の下書きに使う人が出てくるのも、この大きな流れの一部だと言えます。
2. 日本の生成AI利用率は米国68.8%、中国81.2%に大きく後れ(総務省「令和7年版 情報通信白書」)
同じ白書の国際比較では、2024年度の個人の生成AI利用率は米国が68.8%、中国が81.2%、ドイツが59.2%と報告されています。日本の26.7%は主要国のなかでも低い水準にとどまっています。この差は、葬儀のようなデリケートな領域での技術導入のスピードにも影響します。日本では、新しい仕組みを取り入れるかどうかを慎重に見極める文化が根強く、お別れの場面ではなおさら丁寧に向き合う傾向があると考えられます。
3. 20代の生成AI利用率は44.7%、世代差が鮮明(総務省「令和7年版 情報通信白書」)
白書の年代別データでは、20代の生成AI利用率が44.7%と最も高く、40代29.6%、30代23.8%、50代19.9%、60代15.5%と、年代が上がるにつれて下がっていきます。喪主を務める世代と、文章作成にAIを使い慣れている世代は必ずしも一致しません。だからこそ、家族のなかで若い世代が弔辞の下書きを手伝うとき、AIが橋渡し役になる場面が今後さらに増えていくと見られます。
4. 日本企業の生成AI活用方針は49.7%に拡大(総務省「令和7年版 情報通信白書」)
企業側に目を向けると、生成AIを「積極的に活用する」「領域を限定して活用する」と方針を定めた日本企業の割合は、2024年度調査で49.7%に達しました。2023年度の42.7%から増えています。一方で米国企業は7割から9割が活用方針を持つとされ、ここでも差が残ります。葬儀社や周辺の事業者がAIによる事務効率化や顧客対応の支援を取り入れる動きも、この企業全体のトレンドの延長線上にあります。
5. オンライン葬儀中継の普及率はコロナ禍でも13.3%にとどまる(鎌倉新書「第6回お葬式に関する全国調査(2024年)」)
鎌倉新書(「いい葬儀」運営)の「第6回お葬式に関する全国調査(2024年)」によると、オンラインでの葬儀中継を利用した割合は13.3%にとどまりました。リモート参列やライブ配信は、コロナ禍で一気に注目されましたが、定着の度合いはまだ限定的です。遠方の家族や、体調などで足を運べない人にとって意味のある選択肢である一方、画面越しのお別れに違和感を覚える人も少なくないことが、この数字からうかがえます。
6. アフターコロナで一般葬が回復、家族葬は50.0%(鎌倉新書「第6回お葬式に関する全国調査(2024年)」)
同じ調査では、葬儀の種類のうち家族葬が50.0%で最多、次いで一般葬30.1%、一日葬10.2%、直葬・火葬式9.6%でした。前回調査と比べると家族葬は5.7ポイント減り、一般葬は4.2ポイント増えています。新型コロナが感染症法上の5類に移行し、参列者の多い一般葬が戻りつつあります。お別れの規模が再び広がるなかで、配信や記帳のデジタル化が、大人数を無理なくつなぐ役割を担い始めています。
7. 葬儀費用の総額は平均118.5万円(鎌倉新書「第6回お葬式に関する全国調査(2024年)」)
同調査による葬儀費用の総額は平均118.5万円で、前回より約8万円増えました。種類別では一般葬161.3万円、家族葬105.7万円、一日葬87.5万円、直葬42.8万円です。費用が上昇するなか、見積もりの透明化や事前相談のオンライン化を求める声が高まっています。デジタル化は、単なる目新しさではなく、費用や段取りをわかりやすくし、遺族の負担を減らすための実用的な道具として期待されています。
8. 「小さなお葬式」の葬儀実績は累計59万件を突破(株式会社ユニクエスト)
ネット経由で葬儀社を手配する流れも着実に広がっています。比較・紹介サービス「小さなお葬式」を運営する株式会社ユニクエストによれば、同サービスの葬儀実績は累計59万件を突破し、提携する葬儀社・式場は全国で多数にのぼります。2009年のサービス開始以降、定額のわかりやすい料金で葬儀社をつなぐ仕組みが支持を集めてきました。お別れの入り口がインターネットになりつつあることを示す、象徴的な数字です。
9. 香典のキャッシュレス決済サービスが各社で始動(株式会社ユニクエスト)
香典や返礼のデジタル化も進んでいます。一部の葬儀サービスでは、スマホで訃報を伝え、参列できない人も電子決済で心づけ(香典)を届けられる仕組みが提供されています。葬儀に行けなくても故人への想いを形にできる仕組みです。香典をキャッシュレスで扱うことが日本の慣習に馴染むかどうかは依然として論点ですが、遠方や多忙で参列が難しい人への新しい選択肢として、静かに広がりつつあります。
10. QRコード墓標は米国で年間7,500件以上の実績(ギズモード・ジャパン)
墓石にQRコードを取り付け、スマホで読み取ると故人の写真やプロフィール、思い出が表示される「デジタル墓標」も登場しています。報道によれば、米国ではこの種のサービスが2012年から提供され、年間7,500以上の新しい墓石に採用された実績があるとされます。日本ではまだ広く浸透しているとは言えませんが、お墓参りそのものをデジタルで補う動きとして、寺院や石材店を通じた提供が少しずつ始まっています。
11. デジタル墓・追悼サイトのサービスが国内でも提供開始(スマートシニア株式会社 プレスリリース)
日本国内でも、永代に使える独自のQRコードと、ネット上の追悼サイト(ウェブ墓)を組み合わせたサービスが提供されています。スマホで読み取ると、故人の名前や写真、動画などが表示され、オンラインで献花や焼香に近い体験ができるものもあります。お墓が遠い、墓じまいを考えている、といった事情を抱える家族にとって、記憶を未来へ残す新しい受け皿になりつつあります。デジタル遺影やメモリアルアプリも、この延長線上で広がりを見せています。
12. 故人をAIで再現する「Revibot」、亡くなった2日後に納品の事例(東洋経済オンライン)
故人をAIで再現するサービスも、日本で実際に始まっています。報道によると、冠婚葬祭事業を手がけるアルファクラブ武蔵野は、AI技術を用いた故人再現サービス「Revibot」を2024年12月に開始しました。98歳で亡くなった男性のケースでは、遺族の依頼から短期間で映像が制作され、通夜の場で初めて披露されたと伝えられています。生前の姿を再び目にできることは、グリーフケア(遺族の喪失感のケア)としての効果が期待される一方、慎重な議論も求められています。
13. 「似ていない余白」にこそ意味があるという制作者の視点(レバテックLAB)
故人再現AIは「死者の蘇生」ではない、という考え方も重要です。制作に携わる人々への取材では、遺族はAIが再現した姿の「似ていないところ」、つまり余白に、自分の記憶のなかの故人を投影しているという見方が語られています。完璧に似せることが目的ではなく、思い出にアクセスするきっかけを生むことに価値がある、という視点です。テクノロジーが弔いに関わるとき、何を再現し、何を再現しないのかという問いが、つねに残ります。
14. 故人AIサービスには生前の意思表示など倫理上の課題(ABEMA TIMES(Yahoo!ニュース))
故人AIをめぐっては、倫理的な論点も丁寧に扱われています。報道では、亡くなった家族をAIで再現したケースを通じて、本人が生前にどこまで望んでいたのか、つまり生前の意思表示の必要性が問われています。本人の同意なく声や姿を再現することへの懸念、データの扱い、依存のリスクなど、検討すべき点は少なくありません。技術が先行するなかで、当事者の心情とルール作りをどう両立させるかが、これからの課題になっています。
15. 【世界市場】デスケアサービス市場は2024年に約1,070億ドル(Market Data Forecast)
視野を世界に広げると、市場の大きさが見えてきます。調査会社Market Data Forecastの推計によれば、世界のデスケアサービス市場(global death care services market)は2024年に約1,070億ドルと見積もられ、2033年には約1,934億ドルに達すると予測されています。年平均成長率(CAGR)は6.80%とされます。お別れに関わる産業全体が、緩やかながら着実に拡大していることがわかります。なお市場規模は調査会社ごとに前提が異なり、数値には幅があります。
16. 【世界市場】デジタル葬儀サービス市場は2033年に約26億ドルへ(Market Growth Reports)
そのなかでも、デジタル化に特化した領域は成長が速いと予測されています。調査会社Market Growth Reportsによると、世界のデジタル葬儀サービス市場(global digital funeral services market)は2024年に約15.1億ドルと評価され、2033年には約26.2億ドルへ拡大すると見込まれます。CAGRは7.14%とされます。オンライン中継、デジタル追悼、AIを使ったサービスなどを含むこの分野は、全体の葬儀市場よりも高い伸びが予測されている点が特徴です。
17. 弔辞・お悔やみ文をAIで整える流れが各国で拡大(The Washington Post)
最後に、私たちにとって最も身近なトレンドです。米紙ワシントン・ポストの報道によると、葬儀社や遺族のあいだで、弔辞や追悼文(obituary)をAIで作成する動きが広がっています。ある葬儀管理ソフトはこの数年で数万件規模の追悼文を作成したと伝えられ、葬儀ディレクターが遺族に「AIに文章を任せますか」と尋ねる場面も出てきています。同時に、AIが事実を取り違える「ハルシネーション」のリスクも指摘されており、最終的に人が確認し、心を込めて整えることの大切さは変わりません。
まとめ
こうして並べてみると、葬儀の世界にも確かにテクノロジーの波が届いていることがわかります。生成AIの普及、オンライン葬儀やデジタル墓標、香典のキャッシュレス化、そして故人をAIで再現するサービスまで、お別れのかたちは少しずつ広がっています。それでも、どの数字の奥にも、大切な人を思う気持ちという変わらない核がありました。テクノロジーは負担を軽くし、選択肢を増やしてくれますが、何を伝えるかを決めるのは、いつもあなた自身です。そのなかで、AIの最も自然で役立つ使い方のひとつが、心のこもった弔辞の下書きを整えることだと、私たちは考えています。白紙のページを前に言葉が出てこないとき、最初の一歩を支える道具として、AI弔辞作成ツールを静かにご活用ください。