葬儀の音楽は、曲そのものよりも「どの場面で流すか」で印象が決まります。ここでは開式から出棺までの流れに沿って15曲を並べ、それぞれの長さと注意点をまとめました。人気順ではなく、式のどこで使えるかで分けています。
お別れの式は、進行の一つひとつに違う空気があります。参列者が席に着く時間、献花で列がゆっくり進む時間、棺が動き出す時間。そのどれもが必要とする曲調は同じではありません。明るさや知名度だけで選ぶと、いちばん静かであってほしい場面に盛り上がりのある曲が重なってしまいます。そこでこの記事は、場面ごとに章を分けました。各曲にはYouTubeの音源を添えていますので、実際の響きを耳で確かめてから決めてください。
場面別の目安(迷ったときの組み合わせ)
どの曲にするか決めきれないときは、この五つを基本形としてお考えください。いずれも式で使われた実績が多く、長さの見当もつけやすい曲です。
| 場面 | 迷ったときの一曲 | 長さ |
|---|---|---|
| 開式、参列者の入場 | パッヘルベル、カノン ニ長調(視聴) | 4分から5分 |
| 献花、お別れの時間 | 夏川りみ、涙そうそう(視聴) | 約4分30秒 |
| 思い出の写真上映 | 井上陽水、少年時代(視聴) | 約4分 |
| 出棺 | ヘイリー・ウェステンラ、アメイジング・グレイス(視聴) | 3分から4分 |
| お見送り | 蛍の光(視聴) | 2分前後 |
既存の曲ではなく、故人のお名前やお人柄、残された方の思いを歌詞にした一曲を用意することもできます。パートナーのオリジナルうた(オリうた、oriuta.jp)と一緒に、歌詞と歌唱入りの音源をお届けしています。仕上がりの雰囲気は、次の二つの例でご確認いただけます。
開式と入場:場を静かに整える
参列者が着席し、僧侶や司会者を待つ時間です。この場面の音楽は前に出てはいけません。歌詞のある曲よりも器楽曲のほうが向いており、途中で自然に音量を下げられることが条件になります。開式の時刻は数分前後しますので、五分程度の長さがあると担当者が扱いやすくなります。
1. 秋川雅史、千の風になって
葬儀で最もよく流れる一曲です。「お墓の前で泣かないでください」という一節が場の意味とまっすぐ重なり、参列者の気持ちを式に向けてくれます。ただし歌声の存在感が大きく、開式直前に流すと司会の第一声とぶつかることがあります。参列者がまだ入場している早い時間帯に流し、開式の合図の前に静かに絞るのが自然です。音量は控えめから始めてください。
2. バッハ、G線上のアリア
歌詞がないぶん、参列者それぞれの記憶の邪魔をしません。旋律がゆっくりと持ち上がっては降りるだけの構成なので、どこで音量を下げても切れた印象になりにくく、進行が前後しても対応できます。斎場のスピーカーは低音が出にくいことが多いのですが、この曲は中音域が中心のため、簡素な設備でも痩せて聞こえません。開式前の定番として安心して選べます。
3. パッヘルベル、カノン ニ長調
同じ低音の上に旋律が積み重なっていく曲で、静かに始まり、少しずつ厚みが増します。入場が長引いてもそのまま流し続けられ、逆に早く終わってもどこかで自然に止められるのが利点です。弦楽合奏の録音のほか、ピアノ独奏やハープの編曲もあります。会場が広く残響が長い場合は、楽器の数が少ない録音のほうが輪郭がぼやけません。
献花とお別れの時間:列がゆっくり進むあいだ
献花や最後のお別れは、参列者の人数によって長さが読めません。三分の曲を一曲だけ用意すると途中で無音になりますので、二曲続けて流す前提で組むと安心です。歌詞のある曲が最も生きる場面でもあります。
4. 夏川りみ、涙そうそう
亡くなった人を思い出しながら泣く、という内容がそのまま歌われています。献花で列が進むあいだ、参列者はそれぞれ自分の記憶と向き合っていますので、感情を代弁してくれる歌詞がよく合います。テンポが一定で盛り上がりが急に来ないため、列の流れを乱しません。沖縄の音階が印象に残る曲なので、同じ式で他に沖縄系の曲を重ねないほうがまとまります。
5. 美空ひばり、川の流れのように
年配の参列者が多い式で、最も広く受け入れられる一曲です。人生を川になぞらえる歌詞は特定の宗教に寄らず、仏式でも無宗教のお別れの会でも違和感がありません。歌い出しが静かで、後半にかけて厚みが増す構成のため、献花の後半に自然と重みが乗ります。五分近くありますので、一曲で献花の大半をまかなえるのも実務的な利点です。
6. 一青窈、ハナミズキ
相手の幸せが長く続くことを願う歌で、直接に死を歌っていません。だからこそ、若い方を送る式や、悲しみが強すぎて重い曲を避けたい場合に選ばれます。声の高さと音の少ない編曲のおかげで、話し声が混じる会場でも旋律が埋もれません。歌詞の情景がはっきりしているぶん、写真の上映と重ねると映像より歌が前に出ることがあります。献花の場面のほうが向いています。
7. 中島みゆき、糸
人と人の縁を縦糸と横糸にたとえた歌で、故人と参列者一人ひとりのつながりに重なります。結婚式で使われる印象が強い曲ですが、葬儀で流しても不自然にはなりません。ただし、そのことを気にされるご家族もありますので、事前に一言お伝えしておくと安心です。四分ほどでゆっくり終わりますので、献花の締めくくりや、弔辞の前後の間を埋める曲としても使えます。
市販の音楽を式で流す場合、著作権と原盤の扱いは会場や葬儀社の契約によって変わります。ご遺族が個別に手続きをする必要はほとんどありませんが、判断するのは会場側ですので、曲名と歌手名を書いた一覧を早めに渡してください。あわせて、再生機器がCDなのか、USBや外部入力に対応しているのかも確認しておきます。当日になって流せないと分かるのが、いちばん避けたい事態です。
故人を偲ぶ:写真の上映や弔辞のあとに
思い出の写真を映す時間や、弔辞のあとの静かな間に流す曲です。映像に合わせる場合は、歌詞が強すぎない曲のほうが写真に集中できます。上映の尺は多くの葬儀社で三分から五分ですので、曲の長さもそこに合わせて選びます。
8. 坂本九、見上げてごらん夜の星を
穏やかで、悲しみを煽らない曲です。星を見上げるという情景が、亡くなった方を思う気持ちと自然に結びつきます。三分ほどと短いため、写真の上映が短めの場合にちょうど収まります。録音は古く、高音域が現代の曲より控えめですので、他の曲と続けて流すと音量差が出ます。担当者に前後の曲との音量合わせをお願いしておくと、切り替わりが滑らかになります。
9. 坂本九、上を向いて歩こう
明るい旋律ですが、内容は涙をこらえて歩く歌です。前向きに送りたいご家族に選ばれることが多く、参列者の年代を問わず知られています。テンポがあるぶん、献花のような静かな場面では浮きますので、写真の上映か、式のあとの会食に向かう時間帯に置くのが自然です。口ずさむ方が出ることもありますが、この曲に限っては場が和らぐほうに働きます。
10. 井上陽水、少年時代
夏の記憶をたどる歌で、故人の若い頃の写真とよく合います。歌詞が具体的な人物を描かないため、映像の内容がどのようなものであっても邪魔をしません。旋律の起伏が穏やかで、写真が切り替わるたびに音楽が主張することもありません。上映が四分を超えるようであれば、二番の途中から音量を落として司会の声に渡すと、終わり方がきれいにまとまります。
11. 石川さゆり、花は咲く
残された人が前を向くことを歌った曲で、悲しみだけで終わらせたくない式に向いています。歌い出しから合唱に広がる構成のため、後半に自然と厚みが出て、上映の終わりと重ねやすいのが特徴です。多くの歌手による録音があり、声質によって印象がかなり変わります。落ち着いた式であれば独唱に近い録音を、参列者が多い式であれば合唱版を選ぶとよく通ります。
出棺とお見送り:最後の数分
棺が動き、参列者が外に出るまでの時間は短く、二分から三分で終わることがほとんどです。長い前奏のある曲は、盛り上がる前に場面が終わってしまいます。始まりがはっきりしていて、途中で切っても不自然にならない曲を選んでください。
12. 旅立ちの日に
卒業式の合唱曲として知られていますが、送り出す気持ちを歌った曲ですので、出棺の場面にそのまま重なります。合唱のため一人の歌声が前に出ず、参列者が誰かの声として聞かずにすむのも、この場面では利点です。学校関係の方が多い式や、若い方を送る式で特に受け入れられます。二分半ほどで、出棺の所要時間とほぼ一致します。
13. 蛍の光
別れの場面の曲として、説明のいらない一曲です。参列者の年代を問わず知られていて、流れた瞬間に「お見送りの時間だ」と全員に伝わります。だからこそ、出棺の前ではなく、霊柩車が出るまさにその時に合わせてください。早く流すと、まだ済んでいない進行を急かす合図に聞こえてしまいます。器楽の編曲であれば、閉店の連想も和らぎます。
14. ヘイリー・ウェステンラ、アメイジング・グレイス
キリスト教の讃美歌ですが、日本では宗派を問わず葬送の曲として受け入れられています。無伴奏に近い歌い出しは、屋外に出た瞬間の静けさとよく合います。教会での式であれば当然の一曲ですし、仏式であっても英語の歌詞が意味を主張しすぎないぶん、かえって使いやすい面があります。歌手によって長さが二分から五分まで幅がありますので、録音を選ぶ前に必ず尺を確かめてください。
15. アンドレア・ボチェッリとサラ・ブライトマン、Time to Say Goodbye
題名のとおり別れを告げる歌で、出棺に選ばれることの多い一曲です。ただし後半は非常に劇的に盛り上がりますので、静かに送りたい式には強すぎることがあります。使うのであれば、霊柩車が動き出す少し前から流し、いちばん厚くなる部分が見送りの瞬間に重なるように合わせてください。合図の出し方を担当者と一度打ち合わせておくと確実です。
曲が決まったら、次は式で読み上げる言葉です。文面の組み立て方と長さの目安は弔辞の書き方にまとめています。
よくあるご質問
葬儀で故人の好きだった曲を流してもよいのでしょうか。
差し支えありません。近年はご本人が好んでいた曲を流す式が増えています。宗派によって読経中の音楽を避けるなどの決まりがある場合がありますので、曲名を早めに葬儀社にお伝えいただき、流す場面をあわせて相談してください。
明るい曲やポップスを流すと失礼になりませんか。
場面を選べば失礼にはなりません。読経や弔辞の周辺は静かな器楽曲にとどめ、明るい曲は写真の上映や会食に向かう時間に置くと収まります。歌詞に別れや死をからかうような表現がないかだけ、事前にお確かめください。
音源はどのように用意すればよいですか。
斎場の再生機器はCDが前提のところが今も多く、館内は電波が弱いこともあります。配信サービスだけに頼らず、CDに焼くかUSBに入れた音源を用意し、どの機器につなぐかを一週間前までに担当者と確認しておくと安心です。
曲は何曲くらい用意すればよいですか。
三曲から五曲で式全体が整います。開式前に一曲、献花に一曲から二曲、上映に一曲、出棺に一曲という組み方が基本です。献花は人数によって長さが読めませんので、その場面だけは予備をもう一曲お渡しください。
故人へ贈るオリジナルの歌をつくってもらうことはできますか。
はい。故人のお名前やお人柄、ご家族の思い出をお伺いし、その方だけの歌詞にして、歌と演奏の入った音源をお届けします。お別れの歌はパートナーのオリジナルうた(オリうた)と一緒に、このサイトから承っています。
生演奏と録音では、どちらがよいですか。
進行が読みにくい葬儀では録音のほうが扱いやすく、音量や停止の判断を担当者に任せられます。生演奏を入れる場合は献花のように時間の幅がある場面に限り、演奏者と斎場の下見を一度済ませておくと当日が滞りません。